糞土塾開設のお知らせ

 2006年に糞土師が誕生してから15年、これまでの糞土師活動の中心は、全国を廻っての講演会と、本の出版や糞土研究会会報『ノグソフィア』などでの執筆活動です。講演会は、北海道から沖縄までの38都道府県で400回以上実施したほか、最近はオンラインでの発信も始まりました。ウンコとノグソの本作りでは、『くう・ねる・のぐそ』、『うんこはごちそう』、『葉っぱのぐそをはじめよう』、『ウンコロジー入門』の4冊です。また昨年は、糞土思想や「しあわせな死」などを絡めながら様々な分野の方と語り合う、『糞土師の対談ふんだん』http://taidanfundan.comをweb上でスタート。しかし糞土思想を言葉で伝えるだけではなく、もっと強く深く広めたいとの想いから、新たに糞土塾の立ち上げを決意しました。

 これまでの講演会は、依頼を受けたり誰かに開催をお願いして行うものがほとんどでした。しかし糞土塾という活動拠点を持つことで、これからは主体的に実施できるようになります。また、この場に様々な講座やイベントを呼び込んだり、それらとコラボすることで、これまでとは桁違いの広範囲に糞土思想を広めることができると期待しています。

 糞土思想の根幹は、「自然からいただいた命を野糞で自然に返す」という、人と自然の共生を目指した実践哲学です。それは特に、将来を担う世代に伝えることが重要ですが、今の若い人には野糞未経験者が多く、そのハードルは結構高いことも事実です。そこで糞土塾から徒歩10分ほどの所に「正しい野糞」を実地に学べる林を用意し、プープランドと名付けました。またここでは、林の中で伸び伸び遊びながら自然の素晴らしさを全身で感じ、それを日々の生活に活かしていく事も学んでいきたいと考えています。

糞土塾の建物の概要

 伊沢家の母屋は江戸時代に建てられた古民家です。東日本大震災の烈しい揺れにも持ち堪えたものの、あちこち傷みが激しく、2012年春に母が介護施設に入所して以来空き家になっていました。私自身は高校中退以来、古い土蔵を増改築した離れで暮らしています。   

 母屋には、もったいない精神から捨てるに捨てられなかった先代・先々代からの大量のゴミが、それこそ山のように溜まりに溜まっていました。その処分を昨年9月から始め、土台の基礎工事からほぼ全面に亘る床の張り替え、耐震壁材を入れたり、天井裏の活用から屋根の塗装などまで改修工事は長期に亘り、この7月初めにようやく一段落しました。

 糞土塾の建坪は58坪で部屋数も多く、時代ごとに何度も改修が繰り返されてきましたが、奥座敷などは昭和以前の趣を残しています。特に居間には、囲炉裏の煤で真っ黒になった天井に昔の電線が張り渡され、明治時代のガス灯の名残もあります。その一方で台所と風呂場には新しいシステムキッチンとシステムバスが入り、そして便所はなんと!生前の母の希望で水洗トイレです。糞土塾の名にそぐわないチグハグさですが、現代の生活しか知らない若者も受け入れるには、これで良いのだ、と考えています。というのも、370坪ほどの敷地の庭には野糞可能な竹藪や物陰があちこちにあり、さらにはプープランドという野糞し放題の林も近くにあります。

 そして糞土塾で特筆したいのは、何といっても屋根裏部屋です。母屋は元々は藁葺き屋根だったのですが、葺替えが困難になってきた昭和30年前後にトタンをかぶせ、そのままの状態で現在に至っていました。ところが今回の改修で天井板を一部剥がしたところ、煤竹と藁の古色蒼然とした屋根裏が姿を現したのです。分厚く積もった煤埃に葺き替え用の大量の藁、さらにはカビが生えて固まったハクビシンのものと思われるウンコの山など、それこそ軽トラックで何台分にもなる膨大な量のゴミを運び出し、煤で全身真っ黒になりながら大掃除を敢行。新たに床板を張り詰めた50~60畳ほどの屋根裏部屋は、講演や映写会などに最適な、なんとも雰囲気の良いイベントスペースになりました。

プープランドとは(Poop =ウンコ)

 我が家から歩いて10分ほどの所に、私が野糞をし始めた当初から47年以上に亘り頻繁に通っている林があります。そして2016年に糞土塾の構想を描き始めたときから、この林を「正しい葉っぱ野糞」の実践教育の場にしたいと考えていました。

 というのは、正しい野糞を頭の中で理解しただけでは、いきなりやろうとしても困難です。前もって体験しておくことは欠かせません。これまでの講演会でも時間と場所さえあれば、葉っぱ野糞のフィールドワークをあちこちで行ってきました。しかし、野糞に適した環境と参加者の便意などがうまく噛み合わず、実践まで至るのは難しいのが実情です。自然に命を返すだけでなく、トイレが使えない災害時などを生き抜くためにも、快適で正しい野糞を学ぶための林が是非とも欲しかったのです。

 この林はのっぺりした斜面ではなく5段に分かれ、最下段はヒノキの植林ですが、上へ行くに従いコナラやクリ、カシ等の広葉樹が増えていき、一番上はたった1本のネズの大木を除いて全て広葉樹です。地形も植生も変化に富み、じつは2007~09年に野糞跡掘り返し調査をした「東の林」というのは、この林だったのです(地主さん不明のまま無断で)。

 道路沿いから4段目までの約4000㎡の林は2018年正月に、そして5段目の3000㎡弱の雑木林も、最近正式に取得しました。

 この野糞し放題の林を「野糞天国」という意味合いでプープランドと名付け、2020年の暮れから整備を進めています。まずは地図を作ってメインルートを設定し、藪払いをして道をつけ、危険な枯れ木を切り倒し、それを玉切りして斜面に階段を作り、太い倒木をそのままベンチに利用したり、丸太で大きなシーソーを作ったり……外から物を持ち込まず、元々そこにある物を工夫して作ることの楽しさを追求しています。そしてこの楽しさと充実感を、未来を担う子どもたちに是非とも伝えていきたいのです。

 糞土思想の普及には、子どもたちへの教育が大切だと考えています。ましてや野糞の意義を理解するには、多くの生き物による自然のシステムを知ることが欠かせません。私は糞土思想の中で「生き物失格人間」という言葉を使っていますが、まともな生き物として子どもが成長する過程で、自然の中での遊びと体験は大きな力になります。それらを実践する場としても、プープランドの果たす役割は大きいと思います。

糞土塾の活動目標

 糞土塾とプープランドでは、糞土講演会や葉っぱ野糞の実習など、従来の糞土師活動だけではなく、様々な分野の専門家による講座やイベントなどを開催します。すでに菌類講座とプープランドでの観察・調査の実施が決まっています。また、宿泊可能な施設として、例えば「保養」など、多くの人が利用できるように開放します。それは多様な人々が糞土塾に足を踏み入れることで、糞土思想を広範な分野に広めるきっかけにもなるはずです。

 糞土思想が目指すのは、人と自然の共生社会です。しかし現在の人間社会はほとんど全てを電気に頼り、安易な利便性や快適さの追求に突き進んできました。その一方で、自然の緑を活用して心地良さを得る知恵さえ忘れ、環境破壊はますます加速しています。そこで糞土塾では第一に、庭に茂る緑を活かすことでエアコンを拒否します。実際、真夏の暑いさなかに外から庭に入っただけで、気温がスッと下がるのを実感できます。さらにプープランドの林に入れば、樹々の緑が創り出す空間がどれほど快適か、誰でも納得できるはずです。

 また私は、自然への負荷を少なくするために、電気も水も使用量をなるべく減らし、油汚れは捨てる布で拭いて洗剤を使わないなど、ケチケチ生活を送っています。移動手段は自転車が基本で、車に乗るのは遠距離か、大きな荷物や人を運ぶときなどに限定です。それらは手間のかかる不便さはあっても、自分の力で生きている実感や楽しさも感じられます。とは言え徹底するのは大変なので、そこそこ出来る範囲で楽しみながらやっている、というのが実態です。私が完璧を目指しているのは唯一、野糞だけです。

 安易な快適さや利便性からちょっと離れ、ある程度の不便や手間ひまはかかっても、自然と共生するために必要なことを考えたり試してみたりする場として、糞土塾を活用していければと考えています。そしてそれは、災害などでインフラが途絶えた場合でも、生き抜く力を格段に高めることに繋がります。

 ということで、糞土塾では原則、利用者をお客さん扱いはしません。節電節水を心がけ、使った食器や家具などの片付けと掃除洗濯、整理整頓をお願いします。なお、食事は自炊が基本ですが、グループ利用の場合は有料で賄いを頼むことも出来ます(要照会)。

糞土塾の利用料金等 

 糞土塾開設の大きな目的の一つは、私自身の「しあわせな死」=「破産して野垂れ死に」を実現するためです。私を生かしてくれた自然と人間社会に、これまでにいただいた様々なものを全てお返しして無になり、土に還るのが私の望みなのです。じつは写真家だった頃の稼ぎがまだ残っていて、それらも含めて私の持っているもの全てをお返しするために、糞土塾という形あるものにして、糞土思想を受け継いでくれる若い世代に譲りたいのです。

 つまり糞土塾は、営利目的の宿泊施設ではありません。宿泊費は無料です。ただし水道光熱費などの維持費は必要になるため、カンパをいただけると助かります。大人1泊1000円、学生500円ほどを目安にしてください。他に備品を充実させるためのカンパも大歓迎です。

 講座やイベントなどの会場として貸し出す場合は、まだ具体的な金額は決めていませんが、使用料はできるだけ低く抑えるつもりです。なお、イベント参加費などは、主催者のほうで自由に設定してください。ただし、プログラムの中にほんのちょっとだけでも、糞土師の挨拶など糞土思想を紹介する時間をとっていただいたり、内容に糞土思想に関連するものがあれば嬉しいです。

 当面はこういう形で運営して、改定の必要が見えてきたり、将来糞土塾を引き継いでくれる方が現れた場合など、その生活費なども考えなければなりません。その場合は利用料金なども含めて、糞土塾の運営全体の見直しがあるかもしれません。

問い合わせ

糞土塾に興味のある方は、疑問・質問なども含め、下記宛に遠慮なくご連絡ください。

糞土師:伊沢正名 〒309-1347 茨城県桜川市富谷1014

電話&FAX:0296-75-2384   Eメール: fundo4izawa@gmail.com