マカオからのラブコール その後 会報25号(2019年)より

過過糞(すぎかふん):前田 敏之(千葉)

前号(24号)で糞土師の伊沢さんが書いた「マカオからのラブコール」には、大学生のシェリーさんが、「うんこの美」をテーマに卒論プロジェクトに取り組んでおり、伊沢さんへのインタビューがあったことが書かれていました。今回はその後について。
シェリーさんは卒論プロジェクトを完遂し、うんこのキャラクターグッズなどからなる制作物セット(下の写真)を伊沢さんと私宛てにそれぞれ1セットずつ送ってくれました。
しかし、制作物の文章はすべて中国語で書かれており、伊沢さんも私も読解ができませんでしたが、どうやら送られてきた60ページほどからなる冊子の中に研究成果や伊沢さんのことが書かれているようでした。
そこで伊沢さんと相談し、せっかくなので一部だけでも翻訳をしてもらうことにしました。中国語の翻訳ができる私の友人「きさらづ野良制作室」の田崎建さんと一緒に主要な6つのページを抜粋し、その翻訳を依頼しました。謝金は糞土研の会計から支払わせていただきました。

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はたしてこの研究が糞土師や会員のみなさんにとって価値のあるものであったかはわかりませんが、集まった会費を使わせていただき、うんこの美についての研究結果を知ることができたことにまずは感謝し、以下に報告します。もっと詳しく知りたい方は、事務局までご連絡ください。


image003 <表紙>
うんこ美学の探究と研究
うんこは美しい
なぜ美しいのか

image005 <冒頭ページ>
現在「うんこ」は低俗で汚いものだと思われている。しかし「うんこ」は我々の生命にとって不可欠なものだ。「排便」という行為を通して、また「うんこ」そのものから、我々の気持ちや思想や体調を見てとることができるし、回収して利用すればまた優れた資源となる。こうした事実を踏まえて、本稿では「うんこは美しい」という新たな仮説を提起し、従来のイメージを覆そうと考えている。まず美学的な視点から、「汚い」、「気持ち悪い」といった心理的な抵抗感を取り除く。そして固定化した負のイメージを一新し、うんこの持つ多様性を再認識し、様々な魅力の詰まった「うんこ」を堪能してみたい。

image007 <冒頭ページ>
問題提起
我々の日常生活においては「食べる」「飲む」「うんこをする」「おしっこをする」「寝る」という五つの生理現象があるが、中でも「うんこ」は特に汚いイメージがある。しかし「うんこ」は我々一人一人の生活に大きな影響を与えている。「うんこ」は、我々の気持ちや思想や体調を伝える、いわば鏡のような、我々の生活に欠かせない存在と言えよう。我々は伝統的な「うんこ観」から距離を置き、「うんこ」から目を背けることなく、「うんこは美しい」という新たなアイデアを通じて「うんこ」の魅力に迫る。こうして「うんこの美学」を確立すると同時に、「うんこ」の持つ様々な側面にもスポットを当てていく。

調査方法
まず「うんこは美しい」という仮説を提起し、「うんこ」の「美しさ」について論ずる。個人の主観的な記述にとどまらぬよう、「うんこ」に関するアンケート調査を行ったり、外部の専門家に話を聞くなど、研究の客観性を担保するよう努めた。


image009 <25ページ>
「うんこ」のビジュアルに関しては、泥やソフトクリームとの類比が多いが、今回調査に協力してくれた伊澤正名氏の回答が興味深い。「うんこに美しさを感じますか?もし感じるなら、それはどんなところですか?」という問いに対し、彼は答えた。
「うんこの美しさは、“うんこそのものの美しさ”と“大自然の中での美しさ”の2種類に分けられます。そして、うんこそのものの美しさは、形と色の2種類に分けられます。」
例えば形は、コイルやバナナに似ていると彼は言う。言われてみれば確かに、それらは全てバランスがよく、リズムを感じさせる。
また彼は元々糞土師(ふんどし)を自称する野糞の専門家(実践家)であるため、うんこの大自然における美しさに関しては一家言ある。森の中で朝日を浴びながら湯気を立てるうんこ、その周りに群がるハエ、これこそが大自然の中で生態系をも含んだ最高の美しさだと彼は言う。

image011 <27ページ>
このように考察してくると、「うんこ」は美に関する3つの基本態度である「認識的態度」「功利的態度」「審美的態度」の全てを満たしていることが分かる。また主観という要因も非常に大きい。客観的な見方に比べ主観的な見方の方が、より「うんこ」の美しさを感知しやすいと言えよう。

image013 <32ページ>
以上の考察を経て、「うんこは美しい」という仮説は、美についての3つの基本態度という基準に照らし合わせても、成立することが分かった。そして「うんこ」は我々の身体に対してのみならず、心理や性格にも影響を及ぼしている。「うんこ」に付きまとう負のイメージは、「うんこ」の一側面のみを捉えたものでしかない。「うんこ」はその用途や価値を超えて、様々な「美しさ」によって我々の生活を豊かにしてくれる。「美しさ」の基準は人によって異なるが、「うんこ」は我々に豊かな恵みをもたらす。そしてそれは、疑いなく「美しい」。誰でもはじめは「うんこ」への嫌悪感や拒否反応があるかもしれない。それでも「うんこは美しい」という事実は動かない。
「凡事皆美有り」